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デザインに商機あり

富士機工の「PαスーパーパンチプレスⅡ」

日本のモノづくり業界を見渡したとき、ふと、機能や品質のみで競合との差別化を図るのが年々難しくなっていることに気付く。事実、「匠のワザ」の多くはすでに機械に代替されつつあり、新興国の技術的追い上げも著しい。モノづくりの世界におけるコモディティ化が急速に進んでいる、という事実を受け入れざるを得ないタイミングに差し掛かっているといえるだろう。
そこで、今一度目を向けたいのが「デザイン」の重要性だ。ユーザーニーズがこれほどまでに多様化し、かつ急速に変化していく現代においては、いかに工業製品といえども、デザインやブランディングと無関係ではいられない。そこで本特集では、デザインによって様々なプラスの効果を生み出している製品や、関連する取り組みを紹介する。


富士機工、小型タレパンの決定版


どうしても大型のイメージが先行しがちなタレットパンチプレス。大型機の場合、スペース上の制約で現場に収まらないという事態が往々にして発生してしまう。そんな課題に直面した悩める企業の救世主となるのが、「スーパーパンチプレス」。「他社製タレパンと比べ2分の1程度の大きさ」という圧倒的なコンパクトデザインが強みの、富士機工の誇るロングセラー製品だ。

中・小型機に強い同社ならではの目線で全体をダウンサイジング。テーブル移動量1200ミリメートル×600ミリメートルと、スペースに課題を抱える現場でも導入しやすくした。余計な機能を省いて見た目もスッキリとシンプルに。コーポレートカラーのオレンジ色が映えるデザインに仕上げている。

担当者は「コンパクトというコンセプトに重点を置いてシンプルさを大切にしました。ユーザーの使い勝手に直結する機能を搭載しています」という。

例えば金型を搭載するステーション数は標準で10だが、うち5ステーションは回転機構の付いたインデックス仕様に。さらに1つのステーションにφ10ミリメートル以下の金型を最大4本セットできる「マルチツール機能」(オプション)も用意。全マルチを活用することで最大25ステーション分の金型をセットできるようにした。

「大型機と違い1人で作業を完結できる」点も魅力。タッチパネル上でプログラム操作を行うことができ、材料の搬入出や金型交換も大型機と比べ負担なくこなせる。「コンパクト」というデザインコンセプトの範囲で、可能な限りの機能性を追求した1台といえるだろう。


MMITY、東大阪の技術屋集団×プロダクトデザイナー

A4サイズの板が30秒でイスに?


製造業の町、東大阪市。感染症が業界にもたらす暗雲を払拭しようと、今年2月、この地でモノづくり企業連合「MMITY」が産声を上げた。メンバーは東大阪市・大東市の町工場4社と特許事務所の計5社。今夏からはプロダクトデザイナーともコラボし、製品化第1号となる「ペーパーサイズチェア」の上市に向け歩みを進める。

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組み立てるとイスに、分解して組み合わせるとA3A4サイズの3枚の板に変貌

東大阪のクリエイティブ集団「MMITY」。法人設立こそ今年2月だが、メンバーが初めて集ったのは昨年4月だった。感染症で先行きが見通せないなか、「各々の技術を活かして新しいものを作りたい」と、縁を通じて志を持ったモノづくり企業が集まったのだという。

当初はコロナ対策製品の開発を目指したが、今年6月にプロダクトデザイナーの安岡裕介氏(YapFab代表)がオブザーバーとして合流したのが転機になった。安岡氏はMMITYを訪ねた際のことをこう振り返る。「まず、山ほどの設備があるのに驚いた。相談も加工も材料入手も阿吽の呼吸でできる。雰囲気もフラットで企業めいておらず、デザイナーからするとまさに夢のような環境と感じた」

設備の中にはレーザ加工機もあり、安岡氏自身もアウトドア用品を手掛けることから、さっそくそれらを用いたアウトドア用のイスを提案した。最初の会合から1週間で早くもプロトタイプが完成。以降何度も形を変えながら、8月にはA4A3サイズに分解・収納できる「ペーパーサイズチェア」の原型が完成した。

「モノづくり屋である我々はどうしてもデザイン面に弱みがある」とMMITY代表取締役社長を務めるイケダ・クラフトの池田治氏は言う。「一方、安岡さんはデザインしたものをどこで加工するかという部分に壁があった」(池田氏)。それらがパズルのピースのように「ハマった」ところ、化学反応的に話が進んでいったというわけだ。

■第2・第3の「ペーパーサイズシリーズ」も

ペーパーサイズチェアの材質はMDFと呼ばれる木材だ。5つのパーツに分かれており、それらを組み合わせることで約30秒でイスが完成。反対にパーツを外してパズルのように組み合わせることで、それぞれA3A4サイズの3枚の薄板に変貌を遂げる。ペーパーサイズのため運搬・収納も容易。「キャンプ時にイスがザックのスペースを圧迫することに忸怩たる思いを抱えていた」という安岡氏の思いが反映されたデザインだ。

アウトドア用途のため、組み立てた状態で持ち運ぶシーンも多い。そこで組み立てたパーツ同士が外れにくいよう、パーツの差込部分の溝を扇形に(特許出願中)。パーツを差し込んで回転させることでカッチリはまるようにするなど携行性を高めた。MMITYメンバーのミヤタ(宮田大克社長)によるコーティングで防水性も付与。野外で自由な体勢で座れるよう、横枠を取り払ってフラットな座面にするなど様々な工夫を施している。

「このコミュニティで作りたいものは山ほどある」と安岡氏は話す。「デザイナーは加工技術次第で創作の幅がまったく違ってくる。それを何でも叶え得るのが東大阪。そうした方々とご一緒できたのはすごく有難いと思っている」

一方、MMITYのメンバーも手ごたえを感じている。宮田氏は「久しぶりにモノづくりが楽しい。これまで依頼されたものを形にしていただけで、お金に変わる仕事しかしていなかったことに気付いた。元々我々は皆、純粋にモノづくりが好き。今回はそれを久しぶりに思い出した」と破顔。池田氏も、「中小零細の町工場は、最終プロダクトが見えないなか図面を提供されてモノを作る。しかし今回はゼロからの製品づくり。勉強になるうえ、新鮮さや原点に立ち返った思いも感じる」と話す。

ペーパーサイズチェアは近くクラウドファンディングで先行販売し、その後はECでの販売を予定。イスに続く第2・第3の「ペーパーサイズシリーズ」も計画中だ。

「中小事業者から日本のモノづくりを再び元気にしたい」とIPUSE特許事務所代表弁理士の山本英彦氏。「MMITYの活動を見て他の町工場にもこうした挑戦が波及し、モノづくりの衰退をひっくり返す起爆剤になれば」と前を見据える。


MMITY

20212月設立。金属加工を手がけるイケダ・クラフトの池田治氏が代表取締役社長を務め、ディスプレイ製作を手がけるミヤタ(宮田大克社長)、アクリル加工を手がけるシュンプラスチック(村松康至社長)、独自のアクリルジョイント技術を持つパディーフィールド(田窪政博社長)、IPUSE特許事務所(山本英彦代表弁理士)の、様々な技術・資格を持つ5社が参画。プロダクトデザイナーの安岡裕介氏やウェブデザイナー、SNS運用に長けた大学生など様々なバックグラウンドを持つメンバーとコラボしつつ、オリジナルプロダクトの開発を行っている。