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工場訪問:有光工業(奈良工場)

次代に向けた生産改革、着々と

【奈良県磯城郡田原本町】

奈良工場の全体写真。創業100周年に向けた改修工事が進みつつある

1923年、大阪市西区阿波座で産声を上げた有光工業(大阪市東成区・有光幸紀社長)の歴史は農業向けポンプの開発製造からはじまった。1928年に初の国産三連式高圧プランジャポンプを発売すると、そのパイオニアとしてより高次のモノづくりを志向。以来、高圧洗浄機に農薬噴霧機と、水と空気を媒体とした付加価値の高い製品群で信頼を勝ち得てきた。今回取り上げる奈良工場は、同社の製造を一手に引き受ける心臓部だ。来る創業100周年に向け、多彩な製品群とその競争力の源泉である奈良工場のモノづくりにスポットを当てる。


かつて日本の都が置かれた大和平野のちょうど中ほど。今では磯城郡田原本町と呼ばれるのどかな地に、1975年に竣工したのが有光工業の中核を成す生産拠点、奈良工場だ。約2500平方㍍の敷地にメインの工場棟を含む4棟が並び、製造部や品質保証部など生産に関わる部署がこの地でモノづくりに邁進する。約4年前の組織変更で開発室や設計を担う技術部もこの地に集約され、元々得意としていた洗浄機等の柔軟な特注対応にはさらなる磨きがかかった。

有光工業の展開する製品は産業向けから農作業向けまで裾野が広い。多様な製品を生み出すうえでキーとなるのが、国内で初めて開発に漕ぎつけた三連プランジャポンプだ。内部のプランジャ(円筒形のピストン)による往復運動で液体を移動させて高圧を発生させる仕組みで、構造的には自動車に積まれるエンジンに近い。当然加工にはエンジンに準ずる高い精度が求められるわけだが、奈良工場ではポンプに使われる大半の部品を自社内で加工・組立を行う一貫生産体制を敷くことでこの壁をクリアしている。

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車のエンジンと似た機構をもつプランジャポンプには高い加工精度が求められるが、有光工業では部品から一貫製造を行っている

「ポンプからそれを使った洗浄機まで一貫して自社製造するメーカーはなかなか類を見ません。我々が『洗浄』を軸にした数々の製品を世に送り出せるのもこの強みゆえと言えるのでは」。2022年まで生産本部長を務めた有光大幸専務取締役は、上流からモノづくりを行うメリットについてそう語る。精度の高い部品加工は有光工業の洗浄機の特長である高い耐久性にもつながる。さらに自社で製造しない購入品は三次元測定機による厳格な検査を行い、小型ポンプでは水や圧力の状態を自動測定できる性能検査体制も整備した。有光専務は「人手による検査を機械化したことでさらに製品の品質は上がったと思います」と自信を覗かせた。

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小型ポンプは水や圧力の状態を自動で測定。異常をリアルタイムで可視化し、即座にフィードバックする

■人を選ばない製造工程へ

こうした品質の高いポンプを組み込むことで初めて生まれるのが、有光工業の展開する各種洗浄機だ。同社では性能などの特注オーダーに柔軟に対応する体制を取っているため、必然的に奈良工場の組み立てエリアには日々様々な仕様の製品が並ぶことになる。それを遅滞なく捌く作業者には長年の経験が求められるが、有光専務はこうした人作業の見える化と共有化をよりわかりやすくしていきたい考えだという。

「仮にベテランの技術が100%伝承できるなら、人づての伝承に頼っていても問題ではないのかもしれません。しかしそれは現実的ではないため、熟練技術を大切にしつつ、ソフトウェアなどを用いてベテランの感覚的な技能をより伝えやすい仕組みづくりを行いたいと考えています。モノを作るのはあくまで人。ITの力で人がより働きやすくしたいですね」(有光専務)

同じ考えは奈良工場で進行中のハードウェアの刷新にも息づいている。同社はこのほど、プランジャポンプに使われる「コンロッド」と呼ばれる部品の加工機を新たな設備へと更新した。コンロッドはプランジャにピストン運動を伝える重要部品で、真円度が高くなければ正常に機能しない繊細なパーツだ。しかも工程上ふたつに分割した部品を組み合わせて精度を出す必要があるため、長年専用機で製造を行っていたのだという。

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自社製造のポンプを組み込むことでタフな洗浄機ができあがる

「今回の更新では長年専用機で行っていたコンロッドの加工を汎用機へと置き換えます。『大端部』『小端部』と呼ばれるコンロッドの穴も自動で真円度を測れるよう、測定装置をラインに追加しました。検査の自動化やメンテナンスを容易にすることで工数を減らし、その分人の力が活きるフィールドで活躍してもらうことを目指します」(同)。

2023年は有光工業が創業して100年という節目の年でもある。一連の布石が実を結んだとき、奈良工場のモノづくりはさらなる進化を遂げるに違いない。

(2023年2月25日号掲載)