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Opinion

国際機関日本アセアンセンター(AJC)事業統括長 ラファエリタ C.カストロ氏

RCEPの活用進める日本、市場の拡大・安定を目指すASEAN

――RCEPが1月1日に発行されてから第1四半期を経過しました。現況はいかがでしょうか。

「実はRCEP全体の効果について明確には分かっていないのが現状です。その理由として、フィリピンとインドネシアがまだ批准をしていないということが挙げられます。大きな市場であるこの2加盟国が批准をしないと全体的な効果が見えてこないというのが本当のところです。一方で、日本に関してはかなり活用されているようで、現状では主に中国との貿易関係で使用されているようです。特に原産地証明書を活用した事例が多く見られています。日本はビジネス向けの情報提供もちゃんと行っているので、効率よく活用されています」

――COVID-19ASEANRCEPにどのような影響を与えましたか。

「働いている方たちが働けない環境になるなど、サプライチェーンが阻害される状況が多くありました。それと同時に、出張などのビジネスでの人の移動が難しかったため、悪影響が出ています。一方で、ポジティブな改善・発展がみられたのが、デジタル化が進んだということです。プラットフォームやソフトウェアなどの問題解決するための枠組みがどんどん出てきました。サプライチェーンの混乱が起きた際も、デジタル技術を活用しながら、締約国がRCEPの枠組みを使って、加盟国の中のほかの締約国から部材・物資を入手する動きが見られるなど、とにかく市場アクセスを高めていく傾向にあり、効率化・自由化が進みました。また、サービスの貿易がかなり加速化してきている印象があります」

――RCEPは今後も協議が継続され、協定が変化していくのも特徴です。今後、RCEPあるいはASEANはどのように変化していくことが望まれますか。

ASEANにとってRCEPとは、ASEANの経済パートナーである5カ国(日本、中国、韓国、オーストラリア及びニュージーランド)との自由貿易協定を一本化したものであり、これをふまえて、様々な貿易規則を調和させ、グローバル・バリューチェーン(GVC)を強靱化し、貿易の活性化につなげていくことが目的となります。」

■投資先・生産拠点としてのASEAN

――ASEAN諸国が日本の企業や政府に期待していることはなんでしょうか。

「まずは投資の関係で考えると、ASEANは投資をかなり自由化しました。例えばある加盟国は、国内企業の100%の株式保有を認めています。日本にはそうしたところをちゃんと検証して、どのように進出が可能かを考えてもらいたいというのが1点。もう1点は、日本の企業がサプライチェーンを見直す際、RCEPを活用して有利にASEAN諸国に拠点を置くことができるのではないかと考えています。萩生田光一経済産業大臣がインドネシア、マレーシアを訪問した際、サプライチェーンに関しては『GO ASEAN』と述べ、ASEANでの生産を推進する提言や、それに伴う補助金、資金の提供を考えています(アジア未来投資イニシアティブ)。そうしたロジックから考えても、生産拠点を見直す際、ASEAN加盟国がオプションのひとつとなるのではないかと考えます」

――AJCとしての今後の取り組みについて教えてください。

RCEPを活用するにあたって、各国がビジネス向けにどれだけ情報提供するのかということが鍵になると思います。AJCはそうした目的をもって早めの段階から、RCEPの各章を取り上げたウェビナーシリーズを展開する等、ビジネス向けに特化したかたちで情報提供を継続的に行ってきました。今後は特定分野・業界に特化した情報提供を行おうと考えています。現在、エレクトロニクス、工作機械・産業機械関係、食料品、テキスタイルの4分野を検討しています」

(聞き手・本紙記者、通訳・AJC天野富士子事業統括長代理〈当時〉)

2022515日号掲載)