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Opinion

神戸大学 経済経営研究所 教授 佐藤 隆広 氏

インド、ポスト中国になり得る高ポテンシャル

2023年には中国を抜いて世界の最大人口となる見込みのインド。国連の予測では、インドの人口は2060年代まで拡大が予想されている。

インド経済を研究する神戸大学の佐藤隆広教授は、「市場拡大は間違いないが、インドには独特の難しさがある。機運に乗るだけでなく、長期的に考えることで利益が生まれる市場として見る必要がある。モディ政権の生産連動インセンティブ(PLI)計画や半導体政策、さらに来年の選挙の動向を注視しつつ、激しい価格競争に勝てる独自の強みを構築しなければならない」と分析する。

――足元のインド経済と直近の先行きをどう見られますか。

ウクライナ侵攻を背景とする資源高や米国における政策金利の引き上げ、半導体不足などのグローバルサプライチェーンのひずみに加えて、足元のアダニショックによって、インド経済の先行きにさらなる不確実性が発生しました。またモディ政権は来年4~5月に総選挙を控えており、既得権益にメスを入れる経済改革に踏み込むことはないと思います。とはいえ世界の主要国では最も高い、6%を超える成長率が実現されるのではないかと見ます。245月に成立するであろう新政権がどのような経済政策を実施し、経済改革に向けてどのような取り組みを行うのか。これが最大の注目点です。

――日本の工作機械メーカーがインドに工場を建設するなど、インド国内での生産へという動きが見られます。

インドの経済発展にとっていいことだと思います。モディ政権は、後で説明するPLI計画で地場企業と外資企業による切磋琢磨を望んでいます。日本の工作機械メーカーによる現地生産はインドの産業基盤強化に繋がります。

一方、コロナ禍で日系企業の撤退が相次ぎました。そのような状況で他社に先んじ工場を建設すれば、リスクはありますが先行者利益も出るでしょう。民主主義のインドは選挙による政権交代で政策ががらりと変わってしまう可能性があります。現モディ政権の延長線上で考えるのは危ういですが、待ちすぎてもチャンスを逸してしまいます。

――インドにおける日本の工作機械の需要は。

日系メーカーとの関係構築過程で購入するケースもありますが、耳にするのは「とにかく高い」という声。台湾や中国、韓国など日本企業に代わる工作機械メーカーのなかで価格力が課題です。「意思決定が遅い」という指摘もあり、中国では一ヵ月で見積りが出るのに日本の企業は稟議で半年かかる場合も。「すぐ使いたいのにスピード感が遅い」と、より安価で意思決定の素早い外国企業の機械が選ばれています。

――日本の工作機械メーカーがインドで生産することで現状は変わるでしょうか。

現地生産で意思決定のスピード感は克服できるでしょう。コスト的にも現地の人材を使って部品調達することで安くできるという背景があって進出されるのだと思われます。

――注目すべき政策を教えてください。

「生産連動インセンティブ(PLI)計画と半導体政策の二つです。自動車、自動車部品・セル電池など最先端分野をインドで生産し、生産額や輸出額の数パーセントを補助金として交付します。あらかじめ定められた投資額と生産額を満たした企業に対して5~6年にわたって生産額の4~6%程度の補助金を提供します。半導体国産化に向けた巨額の補助金を支給する政策も実施しています。これまでもインドは30年近く半導体に関する政策を出しては失敗しており、今の政策も失敗する可能性はありますが、今回は脱中国や、台湾進攻の問題があるので現実的かもしれません。

■伸長する自動車需要

――自動車需要やメーカーの動向は。

コロナ禍でディーラーを閉めたり工場を動かせなかった反動で需要は旺盛です。半導体不足による供給遅延もあり納期待ちになっています。金利が高くなっているのに中間層以上の車への需要はかなり高く、まだまだ伸びるでしょう。

特徴としてコンパクトカーからSUVなどの高価格帯に市場が移行しつつあります。車載用半導体不足の影響もあり、インド子会社だけでなく本社も含めたサプライチェーン管理能力が肝となるでしょう。スズキはCNGのエンジンを搭載している車種の生産と販売に注力しており、東芝など日本企業との合弁で新しく車載用バッテリー工場を立ち上げるなど、脱炭素に向けたインド政府の取り組みにも対応しています。

――インドにおけるEV普及の先行きは。

乗用車分野ではシェア3位のタタ・モーターズのEVが健闘しています。また各地で実験的にバスのEV化が試みられています。とはいえインドは恒常的に電力不足で、EVの価格もインド人の平均購買力では高価。そして充電設備が未整備なので乗用車分野での本格的なEV化はまだまだ先でしょう。しかしオートバイ分野では急激なEVシフトが起こる可能性があります。注目はヒーロー・モトコープに次ぐシェア2位のホンダ(HMSI)によるEV化に向けた取り組み。ホンダはすでに充電バッテリーの交換設備を準備している状況ですから。

■市場拡大に合わせ人材育成を

――長期的な目線で、インドの経済面でのポテンシャルは。

今後60年代まで人口増加が予想されています。労働力が豊富であること、さらに人口規模にあわせて国内市場もまだまだ伸びる余地が多いことの2点が強みです。また日本企業にとっては、欧州、中東やアフリカ向けの輸出拠点としても位置付けられるのも魅力です。次の中国はインド、それくらいの期待をかけても間違いありませんが、政権交代などのリスクもあり目先で利益を出すのは至難の業です。

日本企業は駐在社員の声や調査に直接耳を傾け、また若いうちからインドを赴任させる場所として選ぶなど人材育成でもインドを重要と位置づけてほしい、とお伝えしたいです。

(2023年2月25日号掲載)