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Opinion

愛知大学 国際ビジネスセンター所長 現代中国学部 准教授 阿部 宏忠

新エネルギー車(NEV)で存在感を発揮する中国

中国の「ゼロコロナ」政策は昨年12月に急転換し、事実上終了した。しかし、中国各地で断続的に実施された厳しい行動制限は、経済成長の足かせにもなった。

あべ・ひろただ 20年間の日本貿易振興機構(JETRO)勤務を経て2011年から現職に。JETROでは北京、上海、青島に計10年間駐在し、日系企業の中国進出を支援したほか中国市場を調査。1968年生まれ。

中国国家統計局によると、2022年の実質GDP成長率は3.0%で、政府目標の5.5%を下回った。成長鈍化の原因は個人消費の不振だ。社会消費品小売総額は前年比0.2%減と、2年ぶりのマイナスとなった。特に飲食など密集、接触型の消費が低迷したほか、個人の消費意欲も低下し、消費の手控えをもたらしたという。

■NEV国家目標を前倒しで達成

こうした中、販売数量を大きく伸ばし、注目を浴びている消費財がある。新エネルギー車(NEV)だ。中国自動車工業協会によると、2022年の国内新車販売台数は2686万台(前年比2.1%増)で、うちNEV689万台(93.4%増)とほぼ倍増した。新車販売全体に占めるNEVの割合は25.6%となり、中国政府が2020年に策定した「NEV産業発展計画(2021-2035)」の2025年目標「20%前後」を3年前倒しでクリアした。

メーカー別のNEV(乗用車)販売(2022年)では、中国最大手の比亜迪(BYD)が3.1倍の186万台と大きく躍進し、電気自動車(EV)トップの米テスラを上回り、初の世界首位の座を獲得した。なお、BYDは昨年3月にガソリン車の生産を終了し、NEVの生産に専念している。

好調なNEV販売を支え、後押ししたのは、中国政府によるNEV販売促進策だ。電気自動車を実際に購入した筆者の友人の例を紹介しよう。

上海市郊外に住む友人は2台目の自家用車としてトヨタのコンパクトSUVC-HREVモデルを購入した。購入により、以下5つの補助金・優遇を享受したという。(1)中国政府のNEV補助金2万元(1元は約19円)(2)上海市政府の電気料金補助金5千元(3)車両購入税(購入価格×10%)の免除(4)自動車ナンバーの無償登録(ガソリン車なら入札により約10万元で取得)(5)駐車スペースに設置する充電設備の無償提供。なお、トヨタ初の量産EV購入特典として5万元の割引もあったという。これにより、友人はこの乗用車(店頭価格24万元)を実質165千元で購入することができた。

中国政府によるNEV販売促進策は、一部を除き2022年に終了した。しかし、上海では(3~5)は今年も引き続き実施されている。加えて、NEVは充電料金が格安だ。250㌔走行(充電1回)にかかる料金は20元以下で、ガソリン車の約10分の1だという。また、中国では充電スタンドも数多く設置されており、不便さは感じない。一般の消費者でもNEV購入に対するハードルはかなり下がっているようだ。

■NEVは自動車輸出の急先鋒に

中国のNEVは海外販売も好調で、自動車輸出の牽引役となっている。2022年の中国の自動車輸出は311万台(前年比55.4%増)で、ドイツを抜き世界第2位の自動車輸出国に浮上した。うちNEV輸出は2.2倍の68万台に急拡大し、輸出増に大きく貢献した。

NEV輸出で特筆すべきは先進国向けが多いことだ。日本もそのターゲット市場のひとつである。業界トップBYD2020年にEVバス「J6」の対日輸出を実らせた。J6は日本専用仕様バスとして開発された小型バスで、筆者の住む愛知県でも昨年、常滑市の路線バス「グルーン」に6台が採用された。「ガソリン車のバスと比べ、静かで、加速がスムーズ。充電料金が安く、運行コスト減につながっている」(バス運行の知多乗合関係者)という。

BYDは今年、EV乗用車「ATTO3」の対日輸出・販売にも乗り出した。NEVの浸透が進まない日本で、中国車が新市場創出の風穴を開けることができるのか、大いに注目したい。

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(2023年2月25日号掲載)