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Opinion

東海日中貿易センター 大野大介 専務理事・事務局長

中部経済、輸出安定も岐路差し掛かる

協業による新ビジネス創出に期待

隣国でもあり日本の最大貿易相手国の中国。輸出額・輸入額に占める中国の構成比はやや低下傾向でも国別で最大を維持している。

中部地区においても、中国輸入額は1位、輸出額ではアメリカに次ぎ2位と、中国でのビジネス展開は重要な位置づけにある。コロナ禍を経た今、中部地域における対中貿易と対中進出状況について、東海日中貿易センターの大野大介事務局長に話を聞いた。

■一般社団法人東海日中貿易センター
1955年に創立。日中の国交が正常化する以前より、両国間の経済や貿易関係の発展に努めてきた。主な事業は、中国ビジネスの展開や貿易・投資関連情報の提供、調査や事業相談など事業サポートにかかる実務的サービスの提供。そのほか、視察団の派遣や展示商談会、見本市の開催協力なども手掛ける。商社、メーカー、物流、金融など様々な業種に会員企業を持つ。

――コロナ禍の日中貿易はどのような状況でしたか。

「コロナ禍でもむしろ増えました。日中貿易は日本の赤字が続いていますが、東海地域では14年ほど黒字が継続しています。中国向けの輸出が多いことが特徴であり、自動車や自動車部品、工作機械、通信機の輸出に強みがあります。

しかしロックダウンの影響によるコンテナ不足には悩まされました。運賃値上げも発生し物流もストップ。ようやく2022年にコンテナ不足は解消され始め、上がった運賃も下がってきていると感じます」

――コロナ禍やロックダウン、企業にとって重要な判断を要する場面に直面しました。

「物流が止まった上海のロックダウンでは、半年間に渡って大きな影響がありました。倉庫の移管や、他の港からの積み出しといったリスクヘッジを検討する声も出ましたが、結局ハンドリングの複雑化や、顔馴染みの薄い地域での輸出通関の難しさなどもあり、実行した企業はごく一部です。その中に中国以外のアジアへシフトという流れも見られましたね」

――インドやアジア新興国への投資意欲も大きくなっています。

22年度の国際協力銀行の有望国調査では中国を抜きインドが1位となりました。中国の市場は大きいもののコストが増加しており、増加する人口とマーケットの大きさなど将来への期待感でインドに抜かれましたが、まだまだ拠点数が多いのは中国。今年は中国が再び1位に戻る可能性もあります。

加えて、中国では高速鉄道網の整備が一段と進みました。とある地方都市では『北京から56時間かかった移動が1時間半に短縮した』という声も。地方へのインフラが整備され、中国マーケットはさらに伸びる余地があります。

またコロナ禍を経て、新規事業よりも既存ビジネスが堅実あるいは拡大傾向にある日本企業が多く、中国への投資の動きは工場拡大など、既存事業に追加するかたちが多いようです」

――23年の日中貿易の展望は。

「日中貿易全体の15%ほどが東海地方の占める割合です。今後増減があったとしても15~17%のゾーンの変化に留まると予想しています。

しかし半導体製造装置の輸出規制は、中部地域で扱っている企業もあり、中国向け輸出が制限されますので、厳しい情況になります。今は半導体そのものには規制はかかっていませんが、これからの動きを注視しなければいけません。

他に関心が高くなっているリスクとしては台湾問題。有事の際の工場稼働や、駐在者の安全確保、輸出入が通常通り行える見込みがあるのか、といった相談がございます。台湾に関連して米中問題がクローズアップされた場合など、自社だけではコントロールできないリスクがあります」

■中国とのジョイントベンチャーに期待

――中国でEVが急速普及しています。

「コロナ禍中で生産量は5倍以上になりました。順調に増えており、もはや日本で中国のEVを売る時代です。

以前では日本が技術力と資金力を持ち中国は土地と従業員を、という認識が一般的でしたが、今の中国は資金力をつけ技術力もかなりいいところもあります。

そうすると対等に近いジョイントベンチャーとして第三国へ売るといった広がりも出てきます。中国は自動運転に対してもスピード感を持って取り組んでますし、そこに日本の品質の高い安定した技術とコラボするなど協業の選択肢も挙がってくるでしょう。『安く作るための中国』でなく、新しいものを生み出すために中国企業と提携する時代になりつつあります。

今、中国で勢いのある企業は年数の若い企業が多く、その成長もどこかで頭を打ちます。中部地域には300年以上続く会社や創業から100年以上の歴史のある会社も多い。時代の変遷でも企業を守ってきた経営について、中国の新興企業が取り入れたいノウハウもあるでしょう。

そして中国は若手人材に積極的に海外留学させており、固定概念に縛られない発想をする人材が増えているのも特徴。日本の技術者にとってはそういった人材との交流も大いに刺激になるのではないでしょうか」

(2023年5月25日号掲載)