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連載 Rの時代

ユームズ・フロンティア、工場配管で超マイクロ水力発電

冷却塔の配管に後付け、電気の地産地消へ

水力発電というと、どうにも大がかりというイメージが付きまとう。注目を集めるマイクロ水力発電(出力が100㌔ワット以下の水力発電)さえ、浄水場など限られた場所でしか発電できないのが実情だ。だが「工場設備の配管で発電できる」と聞けば、イメージは覆るのではないか。それを可能にする「超マイクロ水力発電装置」を開発した、ユームズ・フロンティアの林優社長に話を聞いた。

写真左:クーリングタワー冷却水設備の配管にクルットを後付けした例。従来の配管とは別に迂回路を設けて取り付けており、万一のトラブルやメンテナンス時にも設備稼働を止めない
写真右:クルットの本体

同社が提供する水力発電装置「Crutto(クルット)」は、フランシス型と呼ばれる水車構造を備えた発電機本体と制御盤で構成される。本体は「座布団1枚くらいのサイズ」と小型。発電出力は2~35㌔ワットで、ざっくり言えば一般的な家庭1~2世帯分の電力をクルット1台で賄えるイメージとなる。工場内の配管を利用するため設置の届出も不要だ。

林社長によれば、設置条件は▽配管が満水状態であること▽流量が毎秒4㍑以上▽配管の落差が4㍍以上――3点。平屋の工場の高さが4㍍程度のため、屋上に設置した冷却塔や貯水タンクの配管が主なターゲットだ。取付は最短1日で完了し、既設配管の脇に発電用の迂回管を敷設するため点検や故障の際も設備を止めることがない。落差さえあれば工場から河川への排水管でも発電可能だ。

引き合いは工場やビル、商業施設など様々だが、導入が多いのは工場の冷却塔の配管だという。「とりわけ稼働時間の長い自動車工場や自動車部品工場、生産時の放熱が多い製紙工場や化学プラントに適します」(林社長)。裾野はかなり広いようだ。

■最短5年の投資回収

気になる採算性だが、クルットの導入費は工事込みで約250万円が標準。太陽光パネルと比べ耐用年数も長く、設置後は数年ごとの部品交換を除きほぼメンテナンスフリーだ。「投資回収は8~9年が目安(発電出力2㌔ワット、導入費250万円)ですが、3㌔ワット発電できれば5年での回収も視野に入ります。とはいえ近年はCO2削減を目的とした導入が増えており、投資回収は必ずしも重視されません」(林社長)

ところでユームズ・フロンティアの祖業は工場の遊休機械の売買。なぜ、異分野と言える水力発電装置の開発に舵を切ったのだろうか。林社長はその理由を「きっかけは東日本大震災でした」と語る。「当時は関東の町工場に勤めていましたが、電力供給が絶たれ、大規模な発電インフラに依存するリスクを目の当たりにしました。創業後も電気代に悩む顧客が多く、祖業が軌道に乗ったのを機にクルットの開発に着手したんです」

太陽光や風力は天候に左右されやすく、大規模な水力発電は法規制で導入が進まない。工場の配管なら流量が安定しており、発電量も見通しやすい。この小さな力を利用するのが最適と判断したわけだ。

同社はクルットに加え、発電量や異常の兆候を遠隔監視するシステムを構築している。今後は監視に加え、クルットを設置した配管のバルブを遠隔で操作し、発電を制御する技術も開発予定だ。「我々が安定した電力を享受するには、分散型の発電だけでなく発電の遠隔制御技術がマスト。将来的には太陽光発電とも連携した電力の途切れない発電インフラの構築を目指します」

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林優社長

2023625日号掲載)