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特集

新春産業展望 ものづくり2021 

パラダイムシフト―ニューノーマルを生きる

ものづくりの世界に大打撃を与えた新型コロナウイルス感染症。それまで当たり前に動いていたモノの流通が急に止まり、人が自由に行き来できず、集まって情報交換することすら不自由になる―戦争や自然災害を別にすれば、これほどの制約が強弱の波を打ちつつ長く続くのは、近代の日本の製造業にとって初めての経験だろう。

年明け以降も感染拡大は止まらず、先行きに漂う暗雲はまだ晴れない。だが、苦境に向き合う中でライフスタイルやビジネスの在り方は劇的に変化し、社会構造や価値観の大転換、いわゆる「パラダイムシフト」が加速度的に広がりつつある。

年初恒例の新春産業展望企画では今回、パラダイムシフトを大テーマに掲げた。前半の今号では経済展望のほか産業大転換の象徴でもある「脱炭素社会」を一大トピックスに据えつつ、製造業のDX(デジタルトランスフォーメーション)やロボット活用、人と人のつながり方の変化など、コロナ禍を経て生まれた新常態(ニューノーマル)を生き抜く注目の取組みを追う。

VRSCでのVR検証の様子(三明機工)

PART1:デジタルトランスフォーメーション


経産省、DXレポート第2弾発表

企業のDX、9割が未着手か不十分


■デジタル競争の明暗分ける

日本の企業のDX推進の取組は、全く不十分なレベルにある―経済産業省がこんな危機感をあらわに示した。年の瀬も迫った昨年1228日、経産省が発表した「DXレポート2 中間とりまとめ」の一文だ。18年9月に発表した「DXレポート」に続く第2弾。コロナ禍を踏まえて浮き彫りになったDXの本質及び、企業・政府の取るべきアクションについて記した。

dx01.jpgレポートによると、経産省のDX指標で企業が自己診断した結果、2010月時点で診断結果提出企業(約223社)の9割以上がDXにまったく取り組めていないレベルか、もしくは散発的な実施に留まっている状況にあることが明らかになった(図表1参照)。コロナ禍前の19年とあまり変わっておらず、「テレワークなど既存業務での部分的なデジタル化に留まり、データ・デジタル技術を活用したビジネスモデルの変革=DXの本質にまで至っていない」とみられている。

研究会では「背後に自己診断以前の企業が数多く存在することを考えれば日本企業のDXレベルは全く不十分なレベル。ビジネスにおける価値創出の中心は急速にデジタルに移行しており、今すぐ企業文化とビジネスを変革できるかどうかで、デジタル競争における明暗がさらに明確になっていく」と警鐘を鳴らした。

dx02.jpg■レガシー「企業文化」からの脱却

さらに2年前に発表したDXレポート第1弾について、「メッセージが正しく伝わっておらず、『DX=レガシーシステム刷新』、あるいは、『現時点で競争優位性が確保できていればこれ以上のDXは不要である』等の本質ではない解釈が是となっていたとも言える」と分析する。

では、本来提示したかったDXとは何なのか。研究会では、「DXは単なるITシステム更新ではない。レガシー企業文化から脱却し、データとデジタル技術を活用して迅速に変わり続ける能力を獲得したデジタル企業(デジタルエンタープライズ)に至るまでの変革プロセスこそDXの本質だ」と改めて位置付けた。

また、DXに向けて企業の取り組むべきアクションと政策については、超短期・短期・中長期の3つに分けて提示した。直ちに取り組むべき「超短期」のアクションは、業務環境のオンライン化、従業員の安全・健康管理のデジタル化、業務プロセスのデジタル化、顧客接点のデジタル化―など、今回のコロナ禍で導入が進んだ分野でもある。

続く「短期」のアクションは、本格的なDXを進めるための体制整備が主体。具体的には部門の壁を越えた自社DX戦略への共通理解の形成や、戦略の策定、推進状況の把握などがある。「中長期」のアクションは、内製アジャイル開発体制や、DX人材確保・育成の戦略など、環境変化に迅速に対応した製品・サービスを市場に提供し続けるための能力獲得に至る取組みだ。

■経営トップのリーダーシップ

こうした3段階のアクションのなかで、研究会が最も強調したのは「経営トップのリーダーシップ」の重要性だった。研究会では「経営者にはアジャイルマインド(俊敏に適応し続ける精神)や、心理的安全性を確保すること(失敗を恐れない・失敗を減点としないマインドを大切にする雰囲気づくり)が求められる。それが短期的、中長期的対応の取組への発展につながる」とした。

中小企業向けのDX促進策も用意する。中小企業の実態に即した新たなDX推進指標を用意するほか、同指標による自己診断を各種補助金の要件とする考え。DX推進に向けた準備を整え「DX認定」を取得した中小企業への低利子融資制度も検討中という。また、21年度税制改正には既に、DXへの投資額の最大5%を法人税から控除できる制度も盛り込まれている。


DX投資促進税制を新設

クラウド活用に最大5%の税控除


DX 促進税制 図解 .jpg

2021年度税制改正大綱(20年12月21日閣議決定)に、新たに「DX(デジタルトランスフォーメーション)投資促進税制」が盛り込まれた。他社や部門間でデータを融通するようなシステム投資に対して税を優遇する。クラウド技術を活用することで企業ごと、部門ごとに構築されてきたシステムの壁を越え、データ連携によるビジネスモデルの変革を後押しする。

「DXを実現するためには、経営戦略・デジタル戦略の一体的な実施が不可欠」との考えから、産業競争力強化法に新たな計画認定制度を創設した。部門・拠点ごとではない「全社レベルのDX」に向けた計画を主務大臣が認定した上で、DXの実現に必要なクラウド技術を活用したデジタル関連投資に対し、税額控除(5%/3%)または特別償却30%を措置する。投資額加減は売上高比0.1%以上、投資額上限は300億円。適用期限は22年度末まで。

認定要件はデジタル要件(データ連携・共有、クラウド技術の活用、DX認定取得)と企業変革要件(全社の意思決定と一定以上の生産性向上)の2つ。税額控除率はデータ連携の在り方で変わり、グループ会社間のデータ連携もしくは外部のデータ(顧客・センサーなど)を活用した企業内のデータ連携の場合は3%、グループ外他法人とのデータ連携の場合は5%となる。


中小DX事例

現場データ、利益管理にも生かす


多品種少量の部品加工でDXに挑む中小企業がある。油圧バルブなど、旋削・研削加工による丸物金属部品加工を主力事業とする、飯山精器(長野県中野市、1944年創立、国内従業員数69人)だ。その実践を20年11月20日にオンライン開催された第4回Edgeclossフォーラムで、「旋盤加工屋のICT・IoTを活用したソリューション事例」として同社の寺坂唯史社長が紹介した。

同社では10年ほど前に、見積もりから受注・出荷・生産手配・進捗管理・在庫管理・債権・債務管理までの一気通貫の基幹システム「i-PRO」を開発。毎年数回の改良を重ね、さらに現場では古い設備の稼働状況も3色灯から自動収集できるシステムや、コンベヤを流れる加工後のワーク画像をWEBカメラで読み取って出来高を簡単に収集できるシステムも開発した。これら自社開発のシステムと、Edgecrossを用いたマルチベンダー環境と連携させ、生産工場の見える化と合理化を進めてきた。

現在では事務所PC(生産管理)側で生産計画や進捗状況をリアルタイムに把握でき、顧客の急な問い合わせにも即時対応可能だ。過去実績データから半自動に近い形で加工計画が作成できる加工スケジューラも開発しており、段取り替えなどの効率化や先回り準備の効率化も実現した。

今後は収集した設備故障・異常発生理由などのデータを分析し、稼働率向上に生かす考え。さらに現在、製品ごとに「標準原価」と「実際原価」の比較をして利益が明確にわかる「利益管理システム」も開発中。「このコロナ禍で顧客のコストダウン要求はかなり高まっているが、受け負けするわけにはいかない。データ分析による生産改善と合わせ、適正な利益率を維持確保できるようビジネスを成長させたい」(寺坂社長)。