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ロブテックス、創業135周年・創立100周年

プロに応えた100年、楽しさ伝える次の100年

ロブテックス 代表取締役社長 地引 俊爲 氏

ロブテックスが創業135周年、そして創立100周年の節目を迎えた。祖業のバリカン製造はいつしかモンキレンチをはじめとする工具の製造へと姿を変え、特徴的な「エビ印」はいまや良い工具の代名詞として国内外で通用する。長きにわたり支持を得る理由はどこにあるのか。エビ印工具に滲む「味」と同社の歴史を、地引俊爲社長へのインタビューを通じて紐解く。

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ロブテックスの前身である日本理器は、1923年にふたつの鉄工所が合併することで生まれた。手を結んだのは1888年に初の国産理髪用バリカンを開発した伊藤鉄工所と、同じくバリカン製造を手掛ける地引鉄工所。国内最大のバリカン工場が東大阪・瓢箪山に誕生した瞬間だった。

折しも同年9月には関東大震災が日本を襲う。関東のバリカン工場は軒並み打撃を受け、同社に注文が殺到した。かくして理髪器具の製造を軌道に乗せた同社だが、一方で合併間もない1928年には早くも国産モンキレンチの製造に成功している。転機はバリカンに次ぐ柱を模索する中で手にした1本のモンキレンチだったという。

「当時のモンキレンチは輸入品で価格も高価。そこで偶然手に入った1本の現物をもとに、見様見真似で製造したようです。当時のバリカンは歯のやすりがけもすべて手作業。技術を生かし、国産第一号のモンキレンチとして適切な価格で流通させました」(地引俊爲社長)

翌年には腰が曲がるまで使える丈夫な工具という意味を込めてエビをかたどったお馴染みのマークが誕生。1932年には国内ではじめて金型打鍛造でモンキレンチを製造し、折れづらく信頼性の高い工具を作り上げた。こうして歴史を紐解けば、今に通ずる実直なモノづくりがこの時点ですでに確立されていたことがうかがえる。

■手仕上げが生む「らしさ」

エビ印工具が100年近く支持を受けるのはなぜだろうか。鍵のひとつが、同社が貫く国内生産体制だ。海外で製造すればコストで有利になる。しかし地引社長は「海外ではどうしても細部まで目が届かない」と静かに語る。

「コストとクオリティ。どちらをお客様が我々に期待しているかと考えると、やはりクオリティだと思います。その信頼に応えるうち、自然と国内でのモノづくりを突き詰める方針に辿り着いていました。これまでの135年を振り返っても、我々はあまり派手な花火を打ち上げません。ただその代わり、職人としてのプライドで質の良い工具を愚直に作り続けました。それが今日まで続いてこれた理由だと考えています」

作業工具は手の延長であり、その違いは細部にこそ宿る。数値化できない使い心地は現物を握ってはじめて伝わるものだ。「工具は大量生産するものですが、お客様にとっては自らが握る1本がすべて。だからこそ作り手の思いや温もりを伝えたいですし、そのために最後は職人の手で仕上げています」(地引社長)。すべてを自動化すれば誰が作っても同じ工具になりかねない。決して淡泊にならない「味」を、エビ印工具は今も守り続けている。

■モノづくりを産業から文化へ

ロブテックスの掲げる経営ビジョンは「モノづくりのプロに応え モノづくりの愉しさを育む」。地引社長は「前半はこれまでも常に愚直に貫いてきた部分。しかし後半については次の100年をかけて取り組まねばならないと考えています」とこれからの方針を語る。

「モノづくりはかつて日常に深く溶け込んだものでした。しかし今ではここ東大阪でさえ、一般の方々との距離が開いています。体験教室やDIYを通じ、そうした方々にモノづくりの本当の楽しさを伝えていく。それが我々生産財メーカーの役割ではないでしょうか」

地引社長はさらにこう続ける。「海外、特に欧米では工具で何かを作ることは生活の一部で、いわば『文化』です。しかし日本におけるDIYはあくまで趣味で、モノづくりも『産業』としての域にとどまっています。製造業のイメージを少しでも明るいものに変え、ゆくゆくは文化へと昇華できれば。変わらぬ姿勢でプロに応えつつ、モノづくりが日常へ溶け込んだ世界の実現を、これからの100年で目指していきます」

(2023年3月25日号掲載)