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世界最大規模の自由貿易圏、RCEPいよいよ始動へ

「地域的な包括的経済連携協定」(RCEP)が、2020年11月15日、8年越しの長い交渉を経て署名を迎えた。RCEPはGDP、貿易額、人口のいずれも世界全体の約3割を占める、世界最大規模の経済連携協定だ。関税撤廃やサプライチェーン構築の自由度の高さなど、域内の経済成長拡大に期待が大きく、アジア太平洋地域の自由貿易圏のさらなる拡大にもつながりそうだ。特集では識者や企業、関連政府機関へのインタビューなどからRCEPに対する期待と今後の通商や投資戦略への影響を探った。


RCEPは日中韓とASEANなど全15カ国が参加する世界最大の地域経済連携協定だ。当初の交渉メンバーだったインドが離脱したものの、その規模はTPP11CPTPP)やNAFTAをも上回る。国士舘大学政経学部の助川成也教授は、「交渉に長い時間を費やしてきたRCEPが署名に向けて動き出したのは、TPPの影響も大きい。特に米国がTPPから離脱したことで、『アジア太平洋地域の自由貿易の火を消さない』ためにRCEP発効の機運が高まった側面もある」と話す。こうしたアジア太平洋地域に広がるメガFTAの動きに対して締約国以外も敏感に反応しており、CPTPPRCEPともにさらなる加盟国拡大の動きが注視されている。

RCEP参加15カ国のGDPの合計は2019年ベースで258兆ドル、世界全体の29%。参加国の貿易総額(輸出額ベース)は5.5兆ドル、世界全体の29%にそれぞれ相当する。また、人口の合計は約227億人で世界全体の約30%を占める。米中対立の先鋭化をはじめ保護主義の台頭が目立つ今、RCEPは自由貿易をリードする世界最大の広域経済連携として大きく期待されている。

なおRCEPは当初は日本語で「東アジア包括的経済連携協定」と訳されてきたが、「アジアで閉じたEPA」との誤解を回避するべく、「地域的な包括経済連携協定」に公式日本語訳が変わった。離脱したインドには将来的な加入円滑化の道が開かれているほか、協定発効後18カ月経過した後にはインド以外の国または独立関税地域による加入も可能にするなど、さらなる締結国拡大にも期待が寄せられている。

RCEPは今後、ASEANのうち少なくとも6カ国及びASEAN以外の少なくとも3カ国が批准した後60日で発効を迎える。有識者によると、21年末~22年に発効の見込みが強いようだ。

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91%の品目で関税撤廃

RCEP協定参加国全体での関税撤廃率は91%(品目数ベース)。ASEANプラス1FTA2国間FTAなど既存のFTAよりも自由化率が高い。しかも、日中韓にとっては初めてのFTAだ。日本の貿易総額のうちRCEP協定参加国との貿易額が占める割合は、約46%2019年)に上り、得られる関税メリットの大きさが期待されている。

また、日本企業の調達から生産、販売までのサプライチェーンは、アジア・オセアニアまでの全域に渡っている。JETROの調査によると、アジアに進出する日系企業の取引の7~9割はRCEP地域が占める。JETROでは「従来、ASEANと中国、ASEANと日本、タイと日本などとの間で、個別にFTAを利用できる環境にはあったが、面的にFTAを活かしたサプライチェーンを構築することが難しかった。今回、RCEPの累積規定()により、日本の部品をASEANへ送り、ASEANで組み立てた製品を中国など域内へ輸出する場合にもFTAを活かすことが可能になった(ただし、既存FTAよりもRCEPの関税率が低く、原産地規則を満たすことが条件)。また、RCEPにより統一された原産地規則を利用することで効率性が高まり、事務的コストが削減できるメリットがあると考えられる」と言う。

さらにRCEPでは地域の貿易・投資の促進及びサプライチェーンの効率化に向けて、原産地規制の品目別の統一や税関手続きの円滑化など市場アクセスを改善し、発展段階や制度の異なる多様な国々の間で知的財産、電子商取引等の幅広い分野のルールを整備する。これらにより域内ビジネスの活発化が期待されているわけだ。

累積規定―FTA締約国の原産品である原材料を、その他FTA締約国で利用する場合は同原材料を原産材料とみなす規定

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中韓への工業輸出、 16兆円が無税に

RCEP協定参加国全体での品目ベースで関税撤廃率は91%、工業製品のみで92%となった(左図表参照)。日本の産業界にとって期待が大きいのは、初めて同一の経済連携協定に参加することになる中国、韓国への市場が大きく開かれることだ。両国に対する工業製品の無税品目の割合は、中国が従来の8%から86%に、韓国が19%から92%まで大きく上昇する。2か国合計で輸出額16兆円に相当する額で、関税が徐々に撤廃されていくことに期待が大きい。

中国向けの工業製品の輸出では、自動車部品について約87%の品目(対中輸出5兆円)で関税撤廃が予定されている。特に、電気自動車用の重要部品(モータ、リチウムイオン蓄電池の電極・素材等)や、ガソリン車の重要部品(エンジン部品、カムシャフトの一部など)の段階的な関税削減・撤廃に期待が大きい。その他、関税が即時撤廃される品目として、陰極銅、プラスチック押出造粒機、合金鋼の一部などがある。

韓国に対しても、自動車の電動化に必要な電子系部品が10年目または15年目に撤廃されるほか、シートベルト、ゴム製タイヤ、カムシャフトなどの自動車部品で関税が撤廃される。ASEANに対しては、既存のEPAに加えてさらに、タイ向けではディーゼルエンジン部品の一部やカムシャフトの一部、インドネシア向けでは鉄鋼製品、フィリピン向けでは自動車部品の一部などにおいて段階的な関税撤廃が決まり、さらなる貿易活発化に期待が大きいようだ。

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サプライチェーン多元化の動き

RCEPは既存のFTA/EPAに比べて原産地規則などのルールが柔軟化され、企業にとっては原材料・部品の調達の自由度が高まることに期待が大きい。同時に、コスト・物量で優位性の大きい中国からの調達が急増することに懸念もあるが、一方ではここ数年の世界情勢の急変により、「サプライチェーン多元化」の意識が高まる傾向もあるようだ。

国士舘大学の助川成也教授は、「これまでもタイの大洪水や東日本大震災をきっかけに調達の多元化に取り組む機運は高まっていました。しかし、電気電子関連では中国企業が強く、多元化といっても中国の複数企業から購入するケースが多かったようです。それが今回のコロナ禍で中国から調達が途切れ、各国の製造が混乱に陥る要因にもなった」と指摘する。

事態を重くみた日系企業もコロナ禍をきっかけにサプライチェーン多元化の検討を強化している。ASEAN日本人商工会議所連合会(FJCCIA)の調査(207月、理事会社220社)によると、製造業では調達・生産管理について「調達の多元化」(45.5%)との回答が最も多く、「適正在庫の見直し」(442%)、「調達先の見直し」(299%)も重視されていた。


RCEPと日本企業

パナソニック 日韓中、初のFTAに期待大

パナソニックは1960年代にASEANで海外生産(トランジスタラジオ、乾電池、TV、扇風機、アイロン等)を開始して以降、中国、ASEAN、インドなどアジア各国に生産拠点・販売網を次々に構築し、FTAを活用しながら最適地生産・地域内分業の道を切り開いてきた。

パナソニックの2020年度の連結売上高予想は66兆円で、うち約3割が消費者向け家電販売、約7割が企業向け販売の割合。地域別の売上構成比(20年度第3四半期累積実績)でみると、日本(46%)、アジア(14%)、中国(13%)とRCEP加盟国が約4分の3を占める。

同社では昨年11月のRCEP妥結・署名をどう受け止め、いかに活用しようと考えているのだろうか。パナソニック渉外本部・国際渉外部の小口敦子さんに尋ねたところ、「現段階でRCEPの最大のメリットとして挙げられるのは、日本が中国・韓国と初めて締結するFTAであることです」と説明してくれた。

「当社グループの中国工場は中国国内市場向けの生産が主体ですが、日本への輸出もありますし、逆に日本から中国工場に部材・部品を供給するケースもある。具体的にどの製品でどの程度のメリットがあるかは、それぞれの製品のHSコード(※1)別に、原産地規則の適用条件を調べていかねばなりません」(小口さん)

■コンプライアンス強化も
その他のRCEP加盟国の場合は、ATIGAASEANプラス1FTA網がすでに構築されており、パナソニックの製品群においては関税ゼロで域内貿易の取引ができているものも数多い。ただ、これらのFTAの場合は協定別に異なる原産地規制をクリアせねばならず、貿易事務手続きも非常に煩雑なものになりやすかった。この点、小口さんは「RCEPのほうが使い勝手に優れる」と話す。

RCEPにおいても品目別(HSコード別)に原産地規制を調べるのは同じですが、同一品目であれば全ての締約国で同じ原産地規則を適用できる。当社がさらなるコンプライアンス強化に動いている今、RCEPはコンプライアンス運営上のメリットも大きいとみています」(小口さん)

また、同社国際渉外部の藤本深雪主幹は、「既存FTAによる関税メリットが得られなかった製品が、RCEPの累積規定(※2)によって関税撤廃・削減対象になる可能性も今後あります。既存生産ネットワークをすぐに再編という話にはなりませんが、今後のサプライチェーンを考える上での選択肢が広がり柔軟性も高まるのではないでしょうか」と話す。

最後に、RCEPの今後と、メガFTA拡大のトレンドに関してどうみるか。小口さんに尋ねてみたところ、「RCEPに関しては早期発効に向けて、日本政府も産業界も鍵となるASEAN6カ国以上の批准を促進できるよう、働きかけの強化が必要だと思います」と言う。

RCEPTPPの加盟国拡大の傾向など自由貿易拡大の流れは産業界としては大歓迎なのですが、一方でWTOの環境物品交渉の再開にも期待しています。FTAの場合は品目別に原産地規則を確かめなければなりませんが、WTOルールならば原産地証明の必要が無く関税削減の効果がある。メガFTAWTOの両輪で交渉を進めてほしいと願っています」(小口さん)

※1HSコード国際条約で定められた輸出入統計品目番号もしくは関税番号のこと
※2)累積規定―FTA締約国の原産品である原材料を、その他FTA締約国で利用する場合は同原材料を原産材料とみなす規定

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