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武田製作所、最少人数で最大効率追求の板金工場

MACsheetISTを活用して部材を抜いた後の鋼板。立てかけられている鋼板のデータはMACsheetIST上に抜かれた状態の図面で残っており、残った鋼板を含めて最適なネスティングを自動算出する

省力化ソフト4種が増員なしで生産性向上

 現場作業者は3人(そのうちの一人は77歳の武田雅典代表の父)にもかかわらず、多い月には半導体装置や工作機械の部材を2千~3千種類も手掛ける武田製作所(神奈川県厚木市)は、2代目の武田代表が入社した約20年前から、業務効率化や生産の省力化を進めてきた。同社の効率化がユニークな点は、現場の人材をはじめから確保しないと割り切った視点に立っていること。そのため、「1人で何役もできるシステムを構築する必要があった」(武田代表)と振り返る。

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武田雅典代表。前職はテニスのインストラクターで、日本のランキングポイントも所持していたほどの実力。そのころからストイックで、現在は仕事のために筋トレを欠かさない

 武田代表が入社した当時は過去に受注した図面データをフロッピーと紙の帳票で管理していたが、図面を探す作業だけで半日潰れてしまうことも多々あった。これを何とか効率化したいという思いから、ファイル管理システムとしてキャドマックの板金特化CAD/CAMシステム「CADMAC-NEX(NEX)」を導入した。「この頃から都市圏のモノづくりは多品種少量生産に移行していくと言われていた。そうなると段取り替えをいかに効率化するかが重要になってくるが、当社は生産以前の図面管理の段階から躓いていた。NEXを入れることで注文を受けてから製造までの時間を大幅に短縮できた」と振り返り、モノづくりにおける省力化・自動化の重要性を感じた瞬間だったと話す。
 12年前には今の建屋に神奈川県座間市から移転し、三菱電機製の炭酸ガスレーザー加工機「ML2512HV」を導入。それまで使用していたタレットパンチプレスでは製造物が変わるごとに金型を入れ替える必要があったが、レーザー加工機を導入することで段取り替えをゼロにし、生産効率をさらに向上した。
 その際一緒に導入したのが、キャドマックの鋼板の抜き工程のNC生成やスケジューリングを行う「MACsheetΣZERO」と1枚の鋼板から複数部品を高密度に取得できるネスティング機能を持つ「MACsheetIST(IST)」。レーザー加工機との相乗効果で、移転前には約10人で回していた現場を3人で対応できるようになった。
 「人数は少なくなったが自社生産能力は今の方が格段に良くなっている。加えて、コロナ禍に雇い止めをした企業では現在人材確保に苦戦していると聞く。当社は省力化のシステムや設備で柔軟性を担保しているため、一時的に売上や稼働率は下がるが生産能力は削っていないので、景気が戻ってきたらすぐに100%で対応できることが大きな強みとなっている」(武田代表)

■曲げシミュレーションで失敗ゼロへ

 武田代表は製造業において「入口と出口が大切」とし、同社の出口の効率化を担うのが曲げシミュレーションソフト「MACsheetBEND(BEND)」。「BENDのシミュレーション上で曲げられれば基本的に現場でも曲がる。ミスがなくなり、考えなくてよいので曲げる速度も速くなる」(武田代表)と話す。失敗がなくなることで手戻りがなくなり、生産工程が出口に向かってスムーズに流れるようになった。
 同社はキャドマック製の板金ソフトを4種類活用しているが、これだけ多様なソフトを導入している中小企業は珍しい。武田代表は多様なソフトを活用する理由について、「私は経営者でありながら現場にも立つため、どのシステムを導入すれば自分の作業が効率化され、楽になるかわかっている。導入したからには上手く使いたいという思いもあるので、日々どう使うかを本気で考えている」とし、「ちゃんと使えばすごく便利なシステムだからこそ差別化要因にもなっている」と、それらが果たす役割は大きいとの認識を示した。
 最後に最近のニュースについて聞くと「金融機関の担当者にも驚かれたが、資材価格が急騰している中、当社は今年、原価率が下がった。これに一役買ったのがISTで、10年近く購入当初の状態で使い続けてきたが、昨年バージョンを更新したら鋼板に対してより密にネスティングができるようになっていて原価率が下がった。毎年のアップデートが大切だとわかりました」と笑う。「次設備投資するとしたらバリ取りの自動化かな」とこぼすように、同社の現場改善には終わりがなさそうだ。

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MACsheetBENDを活用して曲げたリチウム電池関連部品。R部分は何度も浅い角度で曲げることで加工している。武田代表は「MACsheetBENDがないと時間がかかりすぎて仕事にならない」と振り返る

(2023年10月25日号掲載)