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テルミック、鉄工所の『アマゾン』は愛知にあり

売上50億円のプラットフォーマーへ
[金属や樹脂の切削加工・放電加工] 愛知県刈谷市 

 愛知県常滑市、中部国際空港の至近に見学者が引きも切らない工場がある。昨年はコロナ禍にも関わらず約1300社が訪れた、テルミックのりんくう常滑営業所だ。
 元々は数ある金属加工会社のひとつだったという同社は、リーマンショックの苦境を契機に大胆な改革で姿を変えた。「紙ゼロ・ルーティンゼロ・残業ゼロ」を掲げて徹底したDXを進め、RPAで定型業務を自動化するなど効率化を推進。約5000社の取引先から単品・小ロットの加工依頼を受け、売上は2021年が約32億円、昨年が約42億円、今年度は48億円をうかがう。そしてこれだけの売上を同社は、外勤営業なし、しかも加工経験のない若い女性を中心に叩き出しているのだ。
 「我々は顧客と仕入れ先を結ぶプラットフォームの役割を果たしています」。テルミックの田中秀範社長は自社のビジネスをそう言い表す。改良を重ねた生産管理システムは、顧客支給の図面データをもとに過去の類似図面や見積、価格交渉や追加工の履歴に至るまでを一瞬で抽出。システムの扱いやすさは「アパレルの無人レジのレベル」といい、そこから標準で45分以内、確認事項の多い案件でも1日以内に見積を提示する。加工は自社や各地の協力会社の中から最適な工場で行い、品質はテルミックが保証する形。つまり同社は製造業者であり、同時に製造業のプラットフォーマーでもあるわけだ。
 「お客様にとって重要なのは買いやすいか買いにくいかです」と田中社長は言う。確かに顧客からすれば図面を渡せば返す刀で見積が出され、品質の保証されたワークが納期通り届くのは便利だろう。旋盤やフライス、5軸、放電など加工の幅も広い。「客先が仕入れ先になり、仕入れ先が客先になることもあります。自分で言うのもなんですが、鉄工所界のアマゾンのように受注を伸ばしています」(田中社長)

■変わるべきは製造業

 約150名いる社員のうち、女性の割合は7割弱。人手不足の世にあって、昨年はおよそ450のエントリーが同社の採用窓口に寄せられた。なぜ人が集まるのかという疑問は、りんくう常滑営業所に足を運んでみて納得に変わった。音楽が流れアロマが漂い、洒脱なラウンジがあり夜はネオンが灯る。刈谷本社にはスタジオ(ラジオブース)まであり、製造業のイメージに縛られない遊び心がある。それでいて業務は標準化され、工場にはヤマザキマザックの立形MCVCN-460」など最新の加工機が整然と並ぶ。物の搬送は配膳ロボが行い、自動倉庫とコンベヤで物流の無駄も省いている。
 「現実として、今の若い方々と昔のモノづくり業界を支えた人々の価値観は大きく違います」と田中社長は話す。「3年下積みするより、入社して3カ月で第一線に立ちたいと考える人も多い。つまり、採用する我々が変わらなければいけないわけです」
 同社は製造業のイメージを変えるべく、見学を受け入れどんな質問にも答えるオープンスタイルを貫く。得たヒントをすぐに実行してほしいからこそ「なるべく決裁権を持った人と来てほしい」そうだ。

2023610日号掲載)